これら一連の報道によって、遺伝子治療という言葉を初めて知った人も多いであろう。 ADA欠損症は遺伝病であるため、伝染病のように流行する性質の病気ではないし、患者の数も全世界で120例ほどが報告されているにすぎない稀な病気である。
エイズや、アフリカで広がり発病者の80パーセントが死亡するエボラ出血熱のように社会問題化しているわけでもない。 もちろん、患者本人や家族にとっては重大な問題であるが、全国的に注目を浴びる病気とはいいがたいだろう。

それにもかかわらず大きく報道される主な理由は、病気そのものよりも″遺伝子治療という医学″が注目に値する医療であるからに他ならない。 広がる遺伝子医療じつのところ遺伝子治療は、広く病気の診断までを含めて、さらに「遺伝子医療」と呼ぶべき方向に広がろうとしている。
もっとも基本的な臨床としては、ADA欠損症のように従来から遺伝病であることがわかって遺伝子治療は、日本で初めて行われる治療法というだけでなく、専門家や医師の表現を借りれば「21世紀の医療として大きく期待できる」という見方も多い。 なによりもADA欠損症の例にもあるように、いままでなら「遺伝だから」とあきらめていた病気にたいして、単なる対症療法ではなく、「治す」ための、初めてで強力な手段となる期待がもてる治療法である。
さらに将来的には、この治療法は遺伝病だけでなくガンやエイズなどの生命にかかわる深刻な病気、さらにこれまで体質的な病気とされてきた高血圧や糖尿病といった分野まで、さまざまな分野の病気の治療をカバーする技術と考えられている。 そのような「究極の医療」となる可能性を秘めているかもしれない道へ向かう第一歩が、T君にたいするADA欠損症の遺伝子治療だったわけである。
臓器移植の例はもとより、新しい医療はつねに人の生命にかかわる問題を提起する。 それだけに、その進めかたにはさまざまな尺度の判断が必要になる。
その疑問や評価にたいしてオープンでなくてはならないのはもちろんだが、S医師との面談からは、なによりも遺伝子治療そのものの効果や意義を正しく理解してほしい、医師としては、そのような気持ちがもっとも強いのだろうという印象が残ったのであった。 日本初の遺伝子治療遺伝子医療にとっても、ガンやエイズは大きなターゲットになる。
ガン発生のメカニズムには遺伝子の変異が大きくかかわっている、という事実が多くの研究者によって明らかにされている。

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